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能町みね子が語る、「私が愛する女性のお笑い、その面白さ」【前編】

能町みね子が語る、「私が愛する女性のお笑い、その面白さ」【前編】

閉塞感が続く日常生活の心をほぐしてくれるのはお笑い、そう気づいた人も多いはず。 “女”芸人という呼称で、メインストリームのお笑いから線引きされてきた芸人たちだが、能町みね子さんが注目するのは、絶妙なバランスと高度な会話芸で本流から逸脱する女性コンビたちだ。 私は、女性芸人について複雑な思いがありました。 私の「女性芸人(女芸人)」観を見るために、ここ十年の私のツイートを「女性芸人」「女芸人」で検索してみます。 「久しぶりに早い時間(20~22時くらいまでは私にとって早い)のテレビなんか見ると、世間における役目を忠実に果たしている女芸人さんとかを見て、女とは?幸せとは?みたいなことやたら考えちゃって全然おもしろくないな」(2014年9月15日) 「女芸人の単純なブスネタはもうなんか笑えないやっていうのは前から思ってたけど、男芸人が女全般に対し『話がつまらない』みたいに文句を言うネタも意外なほどカブるし、なんかもう古さ感じて笑えないなあと思いながら昨日M-1見てました」(2016年10月26日) 「Aマッソおもしろいから、お願いだから古いテレビ的な『女芸人』あるいは『美人芸人』的な味付けしないで…」(2016年11月4日) ──7年も前から、私の考えは一貫している。1つめは、トークバラエティで、美醜に関することだの、「結婚できない」「モテない」だのという、求められるキャラクターに沿って演じているように見えた女性芸人についてやるせない気分になったもの。 2つめは、実際にM-1の予選(3回戦)を見に行ったとき、全体的にはおもしろかったものの、女性コンビがやりがちな「モテる子がブサイクな子をこき下ろす」「ブサイクな子がモテる子にひがむ」というタイプのネタや、いくつかの男性コンビが演じた「こんなつまらない女、いるよな」と共感を求めるネタに辟易したもの。 私は、お笑いは好きです。現代の日本で「お笑い」といわれるもの全体──落語や漫才やコントの芸(ネタ)、関係性を元にしたテレビでのトークバラエティ番組、ドッキリ企画で人間性をあらわにする番組、笑わせることが主眼となったYouTubeまで、まんべんなく好きです。 しかし、そこにおける女性芸人の立ち位置についてはずっとモヤモヤしたものを抱えていました。吉本興業を中心とした男性芸人たちのホモソーシャルな関係性はそのままテレビバラエティにも反映されており、そのなかで少数派である女性芸人は、わざわざ「女芸人」と「女」をつけて特別なもののように語られることが多く、「男から見た『女』である」という特徴を絶対に意識させられる立場にありました。すなわち、美人だブスだ、抱ける抱けない、モテるモテない、という評価軸からどうやっても逃げられない存在に追いやられていたわけです。 最近ではさすがに世間の風向きがだいぶ変わってきて、セクハラ同然の扱いや、容姿を露骨にこき下ろすことは明らかに敬遠されるようになりました。料理は好きだが男の胃袋をつかみたくない、というキャッチーな視点からジェンダー問題を語るフォーリンラブのバービーのような人も登場しました。まだ不十分ではありますが、これ自体は歓迎すべき傾向です。 お笑いのなかでも、芸人が個別に作り上げて演じる作品としての漫才やコントが好き しかし、私の好きな「ネタ」という観点ではまだ注目が少ないように思う。 私はお笑いのなかでも、特に「ネタ」、つまり芸人が個別に作り上げて演じる作品としての漫才やコントを鑑賞するのが好きなんです。女芸人の漫才やコントには、ブサイク、モテない、というような、男性目線での欠点を取り上げて笑いにするネタもいまだに多く、ともするとそうすることが当たり前のような気すらしてしまうのですが、よく考えてみれば女と女で構成されたたった2人のコンビ内で男性目線など気にする必然性はない。 まだダウンタウンが若手だった30年以上も前、「メンバメイコボルスミ11」というおかしな名前の女漫才師がいました。いました、と知ったように語ってしまったけど、リアルタイムではもちろん見ていません。後追いで知りました。今はとっくに解散しています。 彼女らはまったく笑顔を見せず、感情がほとんど入らない棒読みの関西弁で、わけのわからない世界観の雑談をします。漫才というものはふつう、片方がおかしなこと(ボケ)を言い、もう片方がそれを修正したり指摘したりする(ツッコミ)という形式で会話が進みますが、そういう漫才らしい構成がまったくない会話芸でした。 おにぎりが穴に転がっていって、それを追っていったら穴の中にムーミンがいて、「ムーミンてテレビで見るより男前やなあ」「テレビって膨張するから顔太って見えんねん」なんて言い合う。次々とわけのわからない展開に誘い込まれる。これ、字で見ておもしろさ伝わるかなあ(ごめんなさいね、漫才を文字で書くような野暮なマネをして……)。 私はこの手の、ボケ・ツッコミという役割から完全に逸脱した漫才が大好きなのですが、このシステムは女性コンビほどしっくり来る印象があります。しかしこの形は爆発的な笑いを生むわけではないので、今主流であるM-1みたいなコンテストでは目立った評価が得られにくい。歯がゆい。 【後編はこちら】 能町みね子:1979年生まれ。文筆業、イラストレーター。2006年より、エッセイやコラムを執筆。テレビ、ラジオなどでも活躍。著書に『結婚の奴』(平凡社)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』『文字通り激震が走りました』(ともに文藝春秋)などがある。 From Harper’s BAZAAR September 2021 This content is created and maintained by a third party, and imported onto this page to help users provide their email addresses. You may be able to find more information about this and similar content at piano.io Read Full Article